【インタビュー】野水勉校長先生に聞く 開成高校の今とこれから
新型コロナウイルスに関係する内容の可能性がある記事です。
新型コロナウイルス感染症については、必ず1次情報として厚生労働省首相官邸のウェブサイトなど公的機関で発表されている発生状況やQ&A、相談窓口の情報もご確認ください。またコロナワクチンに関する情報は首相官邸のウェブサイトをご確認ください。※非常時のため、すべての関連記事に本注意書きを一時的に出しています。
見出し画像

【インタビュー】野水勉校長先生に聞く 開成高校の今とこれから

1871(明治4)年に呱々(ここ)の声を上げた開成学園は今年2021年に、創立150周年を迎えます。東大合格者数40年連続全国1位を誇る進学校であると同時に、質実剛健かつ自由な校風でも知られる同校は、今後どのような道を歩むのでしょうか。ご自身も開成中学校・高校の卒業生である野水勉校長先生に、開成の今とこれからについてお聞きしました。

※取材は2021年4月12日に行いました。
※この記事は2021年6月1日に刊行されたSAPIX中学部の受験情報誌『スクエア』207号に掲載された記事のnote版です。

◇野水 勉 校長先生 プロフィール
1954年、福岡県生まれ。東京大学工学部工業化学科卒業、同大学院工学系研究科工業化学専攻修士課程修了。動力炉・核燃料開発事業団研究員を経て、84年、名古屋大学工学部助手となり、89年、金属工学専攻で博士号を取得。90年から91年までハーバード大学医学部客員研究員を務めた後、96年、名古屋大学留学生センター・短期留学部門教授に就任。国際交流・留学生交流担当を長く務める。2020年4月から現職。

「質実剛健」「進取の気性」
脈々と受け継がれる理念と校風

―――創立から150年。受け継がれてきた教育理念についてお聞かせください。
野水先生:本校が教育理念として掲げるのは、「質実剛健」「自主自律」「進取の気性」です。質実剛健は真面目でたくましく、飾らないさまを、進取の気性は従来の習わしにとらわれることなく、積極的に新しい物事に取り組む気質を表しています。自主自律も含め、これらの精神は今も脈々と貫かれています。
創立者の佐野鼎(かなえ)先生は、幕末にアメリカやヨーロッパに派遣された使節団に加わった砲術家で、欧米の教育事情を視察し、教育こそ日本の近代化に重要と考え、学校の設立を決意しました。佐野先生がいたからこそ今の開成がある。150年の重みを改めて感じさせられます。

―――先生も開成OBですが、そんな校風に変遷はありますか。
野水先生:変わったところも変わらないところもあります。例えば、開成の校風を象徴する「開成学園大運動会」は、私が在学していた50年前も今も同じです。中学・高校の全生徒が縦割りの八つの組に分かれ、高3生が下級生を指導。常に最高の運動会を求めて行動するという自主性が伝統になっており、組織づくり、ルールの検討、問題点の改善策などを議論し高めていくのに1年をかけて当日を迎えます。

―――運動会の教育的意義は何でしょうか。
野水先生:運動会は、生徒全員が参加し、団体競技を中心に行います。各自が役割を分担して競技に臨み、生徒だけで運営することがその最大の特徴です。自分たちで試行錯誤しながら民主的に物事を進めるための大きな練習台になるという点で、教育的な価値を感じます。リーダーシップのあり方や友人との絆、先輩後輩で意見を交わす意義も大きいですね。

―――卒業生同士の結び付きが強いことも校風の一つではないでしょうか。「○○開成会」といったOBネットワークが国内外、各界にあると伺いました。
野水先生:かつては部活のOB会が中心でしたが、徐々に地域の開成会ができ始め、その後、医学の診療科や産業分野などで何人かが集まると開成会を結成する流れになったようです。「金融開成会」もありますし、最近では「グローバル開成会」もでき、シンガポールやニューヨーク、ロンドンにも支部があります。私は昨年3月まで30年名古屋にいましたが、「東海地区開成会」に所属していました。

―――どんな活動をしているのですか。
野水先生:中学・高校時代を振り返りながら情報交換をしていました。30〜40人ほどで集まっていましたね。なかには開成会の人脈を使って仕事につなげる人もいます。中高6年間で築かれた関係というよりは、開成出身者ということで誰かが音頭を取り、つてをたどって「○○開成会」がつくられるという感じです。

画像3

◇待望の新校舎、7月15日竣工
開成学園創立150周年の記念事業として建てられた新校舎は、開成の未来をつくるために、本当に必要なものだけで構成された質実剛健なものでありながら、使いやすさと生活空間としての快適さも十分に考慮し、長く使い続けることができる校舎です。
普通教室は面積を従来の2割程度拡大し、グループディスカッションなど多様な授業形態に対応させます。特別教室を拡充するほか、部活動や委員会活動などに使えるフリースペースを各階に設けます。校舎の中心には学生ホールを配置。食堂を兼ねるホールはさまざまなコミュニケーションの場として機能します。図書館は2階と3階の2フロアに展開し、中庭や屋上テラスなどに緑も多く取り入れました。
開放的で回遊性があるつくりも大きな特徴です。生徒たちには、さまざまな交流が生まれ、多彩な活動ができる新しい環境を伸び伸びと活用してほしいと考えています。(野水先生)


国際プログラムが多彩かつ充実
海外大学への進学もサポート

―――国際化についてお聞きします。最近は卒業後に直接海外の大学に進学する生徒が増えていると伺いました。
野水先生:開成の卒業生には国内だけでなく世界でも活躍してほしいので、こうした流れは大いに応援したいですね。
海外大学の場合、入学の要件が日本の大学とは全く違うので、かなり手厚いサポートが必要になります。まずは高い英語力を養うためのサポートです。一般的に、TOEFL iBTなら100点、TOEFL PBTなら600点ぐらいの英語力が必要ですが、これはネイティブの教員と頻繁にディスカッションしたり、文章を書く練習をしたりしておかないと、とても到達できないレベル。そのためのサポートがこの10年でかなりできるようになりました。

―――英語教育そのものが充実してきたということでしょうか。
野水先生:はい。現在、ネイティブの教員は専任が2名、非常勤が5名います。それ以外の英語の教員も英語で授業を行うことができます。10年前に卒業した生徒も「開成の今の英語教育はずいぶん進歩していますね」と驚くほどです。さらに、ネイティブの留学アドバイザーが週に1回来校して留学や進学についてアドバイスする他、年に2回「カレッジフェア」と題したイベントを開催。海外の大学からプロモーションに来てもらったり、海外大学に進学した卒業生の話を聞いたりする機会を設けています。

―――さまざまな国際プログラムへの参加をサポートされていますね。
野水先生:中3生と高1生が中心ですが、欧米のサマースクールに参加する生徒へは手厚くサポートしています。期末試験と重なるのですが、一定レベル以上のプログラムであれば欠席を認めています。参加者が現地での体験を後輩に伝えることも多く、良い刺激になっています。
高校では毎日7、8時限にネイティブの教員が英語特別講座を開講。ディスカッション、エッセー(小論文)の作文、プレゼンテーションを学べるので、英語を伸ばしたい生徒が参加してモチベーションを高めています。最近は、学校説明会で保護者の皆さんから国際プログラムや海外大学への進学に関する質問を受けることも多くなりました。

英語力を伸ばし、多様性を理解する
若い時の留学を後押ししたい

―――海外に出て何を学んでほしいとお考えですか。
野水先生:多様性を理解することです。私が強く勧めたいのは、日本の大学に進学しても少なくとも大学生のうちに交換留学を経験すること。海外の大学の授業を受けて、一定レベルの課題をこなし、一定の成績をもらって単位を持ち帰るのが交換留学の制度ですが、そのためには集中して講義を聞かなくてはなりません。必死になって聞いても、理解が足りなければ友達に相談することもあるでしょうし、授業にはグループワークやディスカッションもあります。そういう場面では自分からどんどん中に入っていく努力が必要です。
学生寮で生活すると、ルームメートと必ずしもうまくいくとは限りません。異文化の衝突があるわけですが、それを乗り越えて一緒に生活して友達になっていくことこそ、将来、海外の人たちと仕事をしていくための重要な訓練になります。年齢を重ねてから、例えば社会人になってから留学しても語学力はなかなか伸びませんし、表面的な議論になりがちです。若い時に海外で暮らせば、英語力を大きく伸ばせると同時に、それ以外のものも吸収してくることができます。コミュニケーション力や交渉力が違ってくるのです。それらを早く身に付けることで、海外での活躍の仕方が違ってくると考えています。

―――先生ご自身も留学を経験されたのでしょうか。
野水先生:中学、高校、大学で留学しておけば良かったと今は思いますが、実はしていません。唯一の留学経験が、36歳の時に名古屋大学から派遣されたハーバード大学への研究留学です。化学の研究者でしたが、帰国後半年ほどすると留学相談の役割を担当するようになりました。さらに3年後には交換留学プログラムのコーディネーターも担当することになり、以来二十数年、名古屋大学で留学生交流や国際交流に関わってきました。二十数校の大学で構成する国際的な大学連合の事務局長や、国際担当総長補佐も担いました。こうした経験からも、若いうちにぜひ、留学を経験してもらいたいと考えるようになりました。

―――英語はどのように勉強されたのですか。
野水先生:中学、高校では英語が苦手でした。自分には英語のセンスがないし、国際的な仕事もしないだろうと思っていましたが、大学4年になって研究室に入ると、読む文献は全て英語。研究して成果を出しても、英語で論文を書かなければ海外の研究者に評価されないので、もっと勉強しておけば良かったと後悔しました。もちろん、やらざるを得ない状況に追い込まれたので勉強するほかありません。やはり動機付けが重要なのです。しかし、大学の国際交流をやっていても英語力不足を痛感しました。若い時に高いレベルにしておくことが重要です。
開成の生徒にも、単純に英語の勉強に励んでほしいと言うのではなく、英語を使わなくてはいけない、使いたいと感じる機会をどんどん提供したいと考えています。例えば、留学生を招いて遊びながらディスカッションするプログラムなどを英語科の教員と検討しているところです。

―――コロナ禍ではこれまでのような国際交流は難しいのではないでしょうか。
野水先生:実際に海外に行くことができないので、プログラムが限定されるのは確かです。それでも、いずれ感染が心配されないような状況になれば、コロナ禍の反動で海外に行きたい人が増えると期待しています。オンラインで英語を浴びることは可能ですが、やはり現地で生活し、さまざまな場面で異文化を体験することに意味があります。今は難しくても、大学では交換留学をぜひ、経験してもらいたい。最低でも海外に1年間住んでみて、自分がマイノリティーであることを体験すれば、多様性の理解や他人に配慮することの大切さも学べるものと考えています。

画像2

◇野水先生の開成生時代
中学、高校では理化学部に所属し、中3から高2まで部長を務めました。化学が好きで、夢は化学の研究者になること。新しいものを生み出すところにその魅力を感じました。しかし、化学がさまざまな公害を引き起こしたことから、大学に入ってからは化学だけでなく、社会科学系の分野をいろいろ勉強したことがその後の人生の大事な要素になったと感じています。
運動会の競技ではあまり貢献できませんでしたが、高1の秋から高2の5月まで運動会準備委員会の議長を務めました。また、高3では8ミリフィルムで運動会の映画をつくりました。夏休みに効果音や音楽をつける作業に没頭。30分の映画を9月の文化祭で発表したのは忘れられない思い出です。
実はラジオの深夜放送に凝った時期もありました。学校から帰宅するとまず寝る。そして夜12時ごろに起き出して、1時から朝5時までラジオを聞いていました。今振り返ると、決して真面目な生徒とはいえなかったですね(笑)。(野水先生)

「高入生」は貴重な存在
入試では広く深く考える力を問う

―――高校から入学してくる生徒には、どのようなことを期待していますか。
野水先生:開成では高校から入ってくる「高入生」を貴重な存在と捉えています。中学からの内進生300名と高入生100名。その100名は、300名とは違う多様性を持って入ってきてくれます。例えば、100名のうち15%ほどは3年以上海外にいた帰国生で、30%ほどは1年以上の海外生活を経験しています。入試で帰国生枠は設けていませんが、海外に長くいて高校から日本の学校に、という時、開成に魅力を感じてくださる方が多いと聞いています。ユニークな人も多く、オリジナリティーを発揮して活躍する高入生OBもたくさんいます。高校の校舎に壁画が描かれているのですが、これを主導したのは壁画の制作を提案して立候補し、当選した生徒会長で、彼も高入生。高入生は新しい空気を吹き込んでくれる存在なのです。
先日、高校新入生の保護者会に出席しましたが、多くのお子さんたちはとても楽しく学校に通っていると聞きました。300名と100名なので、居心地が悪いという意見が出るかもしれないと心配しましたが、中学の時より楽しくて仕方ないようだという声が多かったので安心しました。高1では高入生だけでクラスを編成するので、生徒同士でも刺激し合っているようです。

―――高校入試ではどのような力を見るのでしょうか。
野水先生:学校全体で評価するべきポイントを決めているのではなく、各科目の先生方が中学生に考えてほしい観点を盛り込んだ試験問題を丁寧に作り込んでいます。結果として、浅薄な受験テクニックでは対応できない、広く深く考える力を問うことになっていると思います。条件反射のように素早く答えることは求めていません。見たこともない問題に対して自分の知識を応用して考える力があるかどうかを確認したい。知識という部品をどれだけ持っているかで評価するのではなく、部品をどのように組み立て、どんな作品に仕上げるかという思考力を問いたいのです。

多様な才能と個性が集う環境で
夢を抱き、目標を定めて未来へ

―――先生からご覧になって、現在の開成生の強みは何だと思いますか。
野水先生:専門的な才能を持った生徒がたくさんいると感じています。ある分野に深い知識を持っていて、一見変わっているように思える子も、孤立することなく互いに尊敬し合っている。開成にはそういう空気があります。
1月にオンラインで開催した文化祭では、「俳句甲子園」と銘打った中学生と高校生の対決があったのですが、俳句部の中学生が素晴らしい俳句をつくって高校生を破りました。歳時記を読み込み、先輩たちの背中を見ながらよく勉強していると感心しました。大人も出場した2年前のプログラミングの大会で特賞を取った生徒は、今も継続してプログラミングに打ち込んでいます。文化祭で仮想空間をつくるという企画も、こんな生徒がたくさんいることで実現できました。

―――さまざまな分野で才能を発揮しているのですね。
野水先生:私は中高時代、理化学部に所属していましたが、今の理化学部には大学の先生と研究交流をしている生徒がいます。私のころとはだいぶ違いますよ。物理部をのぞいてみたら、カメラで仮想空間を仕立てるために、自分でハンダ付けをして回路を作っている生徒がいました。こうした研究活動をサポートしようと、OBによる「ペン剣基金」では研究費を助成してくれています。生徒が提案を出して採用されれば、普通なら買えないような高価な機器を購入したり、旅費や取材費の助成を受けたりすることができます。好きなことをやりたい子にとって、これほど良い環境はありません。

―――そんな生徒がつくる「これからの開成学園」のキーワードは何でしょうか。
野水先生:多様な個性です。いろいろな生徒が、日本のためだけでなく、世界のために、校名の由来通り「ものを開いて務めを成す(開物成務)」ことがますます重要になっていくと思います。

―――最後に、高校受験に向けて頑張っている小中学生へのメッセージをお願いします。
野水先生:世界は新型コロナウイルスという困難に直面していますが、困難な状況はどんな時代でも多かれ少なかれあります。あまり動じず、着実に知力を付けてもらいたいと思います。例えば、この感染症は、経済と感染防止のバランスや政治の問題、海外との比較などを考えるための生きた教科書になっています。日本の動き、世界の動きをよく見て、自分の意見を周りの人と交わしてほしい。そのためには新聞や本をしっかり読むことが必要です。ぜひ、将来の夢を抱いて、目標を定めてください。その過程にあるのが勉強です。入試のためだけにやるのではなく、意欲を持って取り組んでほしいですね。
―――野水先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。


開成中学校・高等学校
〒116-0013 東京都荒川区西日暮里4-2-4
JR、東京メトロ千代田線、日暮里・舎人ライナー「西日暮里」駅より徒歩2分
https://kaiseigakuen.jp/
◇受験情報誌『スクエア』無料進呈中
資料請求された方に、受験情報誌『スクエア』最新号を無料進呈中。SAPIX中学部講師による学習アドバイスや、最新の高校入試情報、SAPIX中学部卒業生へのインタビューなど、受験勉強のヒントになる記事が満載です。SAPIX中学部ホームページよりお気軽にご請求ください。
難関国・私・公立高校を目指す小学5年生~中学3年生を対象とした進学指導塾、SAPIX中学部です。受験生とその保護者の皆さまに、「学習や志望校探しのヒント」や「学習のモチベーションアップにつながる読み物」などをお届けします。受験に向けた情報収集ツールの一つとしてご活用ください。