[受験歳時記]第64回「特製シロップ」
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[受験歳時記]第64回「特製シロップ」

高校受験 SAPIX中学部

カバーガラス

「大した傷じゃないんだけど」
「いやいや、1000分の1ミリの傷でも油断できませんよ」

これは外科病院ではなく、スマホ・ショップの前を通り過ぎざま、店先から聞こえてきた客と店員の会話である。割れにくいガラスを作るため、専門の研究所では毎日、スマホの落下実験を行っている。アスファルトの上にさまざまな高さから落として割るスマホのガラスは、約10年間でおよそ1万枚という記事もあった。昔は1ミリだったガラスの厚みも、今ではその半分、1円玉の半分以下の薄さが求められるという。

アイディア

SAPIXの情報誌『スクエア』で連載中の「SAPIX CAREER」は、各界で活躍する卒業生を追う企画だ。4・5月号では世界初のクラフトコーラメーカーを開業した起業家が紹介されている。偏頭痛に悩まされ、その鎮静効果のあるカフェインをコーラから摂るうちに、もっとおいしいコーラをと一念発起。2年半の試作を経たある日、祖父が営んでいた漢方薬の工房での手法が生かせるのではと突如ひらめき、格段の味を見つけ、ついに納得のレシピを考案。「偶然にすぎない幾つかの点が一本の線になっただけ」と本人はいたって謙虚だが、ある広告ディレクターの「優れたアイディアはゼロから作るよりも見つけてくる作業から生まれることが多い」というコメントを裏付けるように、漢方薬の製法に着眼し、東洋医学が秘める成分配合の妙に、アイディアの閃光が走ったことだろう。だからこそ「自分にしかできない事業」とやり遂げる決意で広告代理店も辞め、コーラ工房に専念することとなった。

パイオニア魂

場に適した提案を常に要求される前職の経験もあってか、インタビューではずっと思い巡らせていたかのように整理された考えが述べられている。事業展開で大切にしていることについては売り上げ面と利益面から、仕事の魅力については現場の目線と経営者の目線から、というように、一つの質問に対して二つの視点から考えようとする姿勢が、話を具体化していて分かりやすい。
起業家かつ経営者としては事業の継続と利潤の追求にかなうあらゆる役割を担い、コーラの作り手としては親しまれる味の追究のためなら何にでも取り組む。取引先の倒産や代金の未回収、雨の日の客足ゼロの状況にも耐えつつ、試行錯誤を繰り返してきた歳月がある。

前述のスマホの落下実験をする実験員、今も街角でガラスの割れたスマホ利用者を見かけると、「もっと頑丈で割れないガラスを作らなければ」と使命感にかられるらしい。おそらくこの起業家も、ちょっと口をつけただけで飲み残され捨てられた飲料容器を街角で目にするたびに、「もっと人を幸せにする飲み物をより多くの人たちに」とこの道のパイオニア魂を燃やしていることだろう。

「それなりの味」を「ぜひ、飲ませたい味」に。鉛筆の芯ならいくらでもできるが、ダイヤモンドはいくら待っても現れない。同じ炭素原子なのに、どんな組み合わせが実現すれば、またとない奇跡の一滴が出来上がるのか。日々研鑽に研鑽を重ね、ついに探し当てたコーラを魔法の飲み物に変える極上の特製シロップが、清涼感をたたえて、『スクエア』のカラーページに収まっている。


増田 恵幸
著者紹介:SAPIX中学部にて高校受験指導、受験情報誌『SQUARE(スクエア)』編集に携わる。2019年定年退職。在籍時より『受験歳時記』を執筆。


◆『受験歳時記』第1~55回のバックナンバーは、SAPIX中学部ホームページで読むことができます。第56回以降は、マガジン「コラム[受験歳時記]」からご覧ください。

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