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[受験歳時記]第63回「ドレミの歌」

高校受験 SAPIX中学部

回収日

「玄関脇に置いてあるので、少し荷物になるけどお願いね」
「了解、了解」
「よろしく~」という母親の声に送られてやや大きな透明袋を片手に出掛ける父親。今日は空き瓶の収集日。袋の中で賑やかに擦れ合うガラス瓶の音を聞いていると、入園前の子どもと家中の空き瓶を集めては少しずつ水を入れ、「ドレミファ遊び」をした昔を思い出す。「ドレミの歌」を口ずさみながら、父親はバス停に向かう。

help

SAPIX中学部のYouTube公式チャンネルに、英単語「help」に関する動画がアップされている。単語には語義全体を表す基本的な意味とそこから派生した意味があると思われるが、「help」には、さらに意外な意味があるらしい。「ニワトリがエサを拾うように単語一つ一つを訳してもダメ」と言っていた英文学者がいたが、動画の中では前後の単語の役割や品詞、文脈を手掛かりに意味を探し当てていく過程をサンドイッチの食べ方にたとえている。エサを拾ってすぐに飲み込んでしまうのではなく、薄切りパンの間に挟まれた中身を目で楽しんだり、口に含み舌で楽しんだりするように、単語の意味をあれこれじっくりかみしめることの大切さを説いている。

また、この動画では「help」という語をヒト形の絵を用いて解説している。壁を支えるヒトと足元にうずくまるヒトが描かれたその絵は「help」を理解するには一目瞭然だ。と同時に、その絵は、ただ今、この時の世界の時世を表すかのようにも見える。小説『博士の愛した数式』$${^※}$$に「ルート」という名前の人物を登場させたのは「数学のルート記号が、どんな数字もその屋根の下にかくまうことができるから」と作者が自作解説の中で語っていたが、ヒト形の絵も、ルート記号と同様「人としてとるべき行動」を示しているように思える。「Help!」と悲鳴を上げ、うずくまる市民を屋根の下にかくまい、倒れてくる壁から守り、助けたいと思うのは、強権がもたらす暴挙に対する激しい怒りのマグマであり、平和を求める心が発するエネルギーである。

バス停まで

つい先日まで雪と氷の祭典を伝えていた新聞が、わずか数日後からは、連日、黒煙と流血の報道で埋まっている。戦争と平和の境目が半開きのドア一枚でしか仕切られていない、そんな危うさの只中に、今、世界はある。

寒空の下、自衛のための火焔ビンを作っている市民たち。幸せになりたくてこの世に生を享けたはずなのに、「ドレミファ遊び」をしたくて集めた空き瓶なのに、まさか、黙々と恐ろしい火薬を詰め込むようなこんな世の中になろうとは!

バス停まで歩く道、父親は新しい「ドレミの歌」を口ずさむ。

ド   どんな時にも
レ   連帯感と
ミ   みんなが秘める
ファ  ファイトの心で
ソ   空に向かって高らかに
ラ   ラッパを強く吹き鳴らせ
シ   真の平和と幸せが
ド   どこにも訪れますように

※『博士の愛した数式』 小川洋子 著/新潮社

増田 恵幸
著者紹介:SAPIX中学部にて高校受験指導、受験情報誌『SQUARE(スクエア)』編集に携わる。2019年定年退職。在籍時より『受験歳時記』を執筆。

◆『受験歳時記』第1~55回のバックナンバーは、SAPIX中学部ホームページで読むことができます。第56回以降は、マガジン「コラム[受験歳時記]」からご覧ください。

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