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[受験歳時記]第67回「親子体験記」

高校受験 SAPIX中学部

勇気と元気

SAPIX中学部33期生の親子体験記が二分冊で刊行されている。タイトルは共に『受験体験記』であって類書に見られる「合格体験記」ではない。合格が歓喜の頂点を伴う華々しい出来事の「点」であるのに対して、受験は日々の勉学の積み重ねが続く長い「線」である。ならば、その「線」が先端の「点」に到達するまでの過程と意義を綴る手記としては『受験体験記』こそ、タイトルにふさわしいということだろう。

ある母親は、入試の朝、お腹が痛いと言い出す娘に、3年前の中学受験での同じ場面を思い出している。娘は、全ての先生からの激励の言葉を書き込んだノートを、試験会場で読み返す。独りじゃないと思えて強くなれる気がしたという娘。母親は、3年前とは明らかに違う我が子を、そこに見つけ、力強く記している。「娘は、一度つまずいたところで、再び自信を取り戻した」と。つまずくことは「×」でもないし、「負け」でもない。失敗は必ず回り回ってやがて自分を守る網になってくれる。独りじゃないと思えたのは、激励ノートから元気をもらっただけではなく、自分の身の内から湧いた勇気で強くなれる元気を手に入れたのだ。

切所

また、ある母親は、小中高一貫校に通いながら「高校受験をしたい」と言い出す娘に心を砕く。雨の日も、雪の日も、学校から塾への直行で、肩にずしりと重いリュックを背負う娘を見送る。気付けば、部屋は「起きなきゃ負け!」「合格して恩返し!」の貼り紙だらけだったという。部屋中の貼り紙は、吹き上げてくる思いを表明せずにはいられない、その焦りや葛藤を自分へのムチに変えるための「安全な爆発」だったのかもしれない。その本人の体験記によれば、入試直前の模試で大失敗、気持ちの立て直しに志望校まで足を運び、「絶対受かってやる」と正門前で誓ったそうである。入試には「絶対」も「必ず」もなく、至る所に「万が一」や「必ずしも」が潜む油断ならない細道である。

切所せっしょ」という言葉があり、ギリギリの際に立つ状況を指すらしいが、本番が近づくにつれ、気分的に追い込まれていく中、準備万端で臨んでも不測の事態に見舞われやすい。むしろ日ごとにつのる不安と付き合いながら、部屋中の貼り紙と強固な執念で気丈にあがいてみるのが「切所」の乗り切り方なのかもしれない。

後日談

この『受験体験記』では、いくつか後日談や短い挿話も楽しめるが、受験を終えたある日、息子から「良い文章だから読んでみて」と、つい数日前に受けたばかりの高校の国語の試験問題を渡された母親の逸話がある。おそらく、近年、芥川賞候補となった絵画好きの若者が主人公の作品かと思われるが、入試本番中、この子は、左脳で論理的に文章を解析しながら、右脳で作品を味わいつつ、帰ったら母親に読ませようと考えていたのだ。実際、言外の思いの奥行きまで読み取るその理解度の高さに母親は子どもの成長を感じているし、心の陰影を自分の言葉で表現する難度の高い合格答案を仕上げたであろう息子の、その力業にも感服したことだろう。やはり、子どもとは、その成長を通じて、親に何かを教えるために生まれてくるのだ、と思わされるエピソードの一つである。

「大きくなったね」の喜びと「大きくなってしまったね」のさびしさが相半ばする保護者編。「これからまだまだ頑張ります」の旺盛な意欲と「まだまだ頑張り足りないです」の謙虚さが相半ばする子ども編。どうやら切っても切れない二分冊のようである。

増田 恵幸
著者紹介:SAPIX中学部にて高校受験指導、受験情報誌『SQUARE(スクエア)』編集に携わる。2019年定年退職。在籍時より『受験歳時記』を執筆。


◆『受験歳時記』第1~55回のバックナンバーは、SAPIX中学部ホームページで読むことができます。第56回以降は、マガジン「コラム[受験歳時記]」からご覧ください。

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